東京工業大学では「情報活用IR室」を設置し、学内外の教育研究等にかかる情報を収集・分析、大学運営の支援を行っている。今回は、情報活用IR室に所属する4名の先生に、そのユニークな取り組みについて話を聞いた。
情報活用IR室の概要
――情報活用IR室の概要についてお聞かせください。
森 情報活用IR室は、私が着任した2015年に設置されました。大学執行部からRQ(Research Question)をいただき、それに対して大学の中の各部局、事務局、企画立案執行組織からデータを収集、分析を行います。現在は室長、副室長と教員4名、他事務職員と研究員で構成されており、教育、財務、DX、研究の4つを主なテーマとして、大学の意思決定や業務改善を支援しています。
――具体的な業務内容についてお聞かせください。
森 主に教育IR、業務改革、研究IR、財務等IR、評価支援の5つに分類されます。
まず教育IRについて。本学では2016年より教育改革を開始し、組織やカリキュラムの改正を行ったため、これらの改革についての評価、データ分析を支援しています。また本学ではこれまでさまざまな部署が学生に対してアンケート調査を行っていましたが、これらの調査を全学的に一貫した、効率的な調査とするための再構築に着手しています。
業務改革では、データ管理のプロセスを可視化する等、業務の改善を行っています。なおかつ、データを管理するシステムが乱立していたため、一元化して一括で管理したいというのもありました。本学のIR室では、学内のITに関する改革にも手を伸ばしています。
研究IRでは、ランキングの対応や、競争的資金データを整理して提供しています。
財務等IRは本学独自の取り組みで、教育研究貢献分析というのを行っています。教員の皆さんにコスト意識を持っていただくため、教育活動と研究活動の経済的な側面を切り出し、教員ひとりひとりがどれくらい経済的に大学に貢献しているかを分析しています。たとえば講義を担当している場合、学生一人当たり一単位いくらかを計算して、それに対して教員が何人の学生に単位をいくつあげたかを計算します。研究活動に関しては、研究費として取得した間接経費は一部を運営費用に充てているため、一人当たりの金額を計算し、大学への貢献度を可視化しています。
評価支援では、教員の個人評価を支援しています。事務局で管理している学内の教務システムや共同研究のデータを、整備、分析して教員に提供しています。
東工大IRのユニークさ
――東京工業大独自の取り組みについてお聞かせください。
高松 我々のチームは、支援業務を主務とする教員で構成されています。専門的なデータ解析ができる職員がなかなかいない一方で、解析のできる教員は教育・研究が主務となるためIRにウエイトを置くことができないという現状があります。そのため大学運営を専門的な立場から支援する『マネジメント教授』と『マネジメント准教授』という役職が2022年から設けられました。IR業務が多岐にわたっているため、本学では教員4名体制で担当しています。
――教育IRの、学生調査に関する取り組みについて詳しくお聞かせください。
松本 本学の学生調査は、入学から卒業まで全体で9つ実施されています。学生調査の基礎理論として、入学前情報(Input)、学習環境(Environment)、学習成果(Output)というI-E-Oモデルに沿って整理を行いますが、本学では卒業生の調査をOutputから切り離し、新しくライフキャリア(Life Career)という項目を設け、I-E-O-Lの4つに分けて整理するという方法をとりました。このI-E-O-Lモデルは、現在Data Science and Institutional Research (DSIR)2023に投稿中です。新たに作成したマトリクスを元に学内で各部署に相談し、ひとつのつながったデータとすることを目指して取り組んでいるところです。
――業務改革では、どのような取り組みをおこなっていますか?
今井 IR室設立当初より、我々はデータの正確性を担保できないという課題に直面していました。教育に関するデータだけでも、学生アンケートや学務の書類、学籍情報や成績情報など、大量の学内データが各部署で作られています。この生み出される大量のデータを、いざIRでデータ分析をしようとなった際にデータが集められない(どこの部署で管理されているかわからない、必要な項目が存在していない)、活用できるようになっていない(意図が伝わらない、項目の意味がわからない)という事態が発生することが多いです。
IRを円滑におこなうためには、情報を収集する段階からIR室と各部署が連携していたほうが、その後の解析などはスムーズに進むことが多いと思います。本学ではこの状況を改善するためにBPM(Business Process Management)の考え方を導入しました。何かしらの書類が流れてきたときに、どのような手続きを踏んでデータが確定していくのか、また、どのようなデータを扱っているのか、だれが何をしているのかという業務プロセスを可視化、言語化することで、業務を改善し最適化を行ってきました。
――学内にIR室の取り組みを浸透させ、安心してデータを預けてもらうようにするために行っていることはありますか?
森 IR室は監査室と同じく独立した立場にあります。IR室から出るデータで資源配分などの議論がなされる可能性があるからです。また、IR室が提供したデータに不備がないかヒアリングし、問題があれば調査を行います。あくまでも公正中立の立場で教職員を守るということを観点として活動することが、学内のIR疲れを防ぐことにもつながると考えています。
インタビューと記事:阿部千尋(KEIアドバンス コンサルタント)
東京工業大学 企画本部所属
・森 雅生 教授
・高松 邦彦 マネジメント教授
・今井 匠太朗 マネジメント准教授
・松本 清 マネジメント准教授