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KEIアドバンス
KEI Higher Education Review
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ツールを介したコミュニケーションがすべてを好循環に変える「北陸大学卓球部」の取り組み【独自記事】

運動部学生の履修計画へのコミットメントが「学生募集」を改善


木村信太氏
北陸大学卓球部監督 木村信太氏

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教職員が学生の学業生活に関わることで、学業成績が向上する。これは、理論的にも経験則上も真理である。しかし、そのようなコミットメントの結果、運動部に所属する学生の学業成績だけでなく競技成績も向上し、退学・退部抑制につながった結果、学生募集の改善にまでプラスの影響が出ているという事例がある。北陸大学卓球部・監督の木村信太さんに聞いた。


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◆コロナを機に、部活動の監督が部員の履修管理を始めてみたら…


北陸大学卓球部には、経済経営学部に25名、国際コミュニケーション学部に2名、医療保健学部理学療法学科に1名の部員が在籍している。部員の入学経路の大半はスポーツ活動評価方式という入試区分での入学者だが、残り約3割は一般受験での入学者である。また、全28名の部員の出身地は全国20道府県にまたがっており、さらに韓国籍と中国籍の学生も在籍しているなど、卓球部には多様な学生が集まり、活気にあふれている。(2023年7月時点。)


しかし、以前は問題も多かった。「(部活に入ることを)勧誘されたから入学した」というような、学業への動機付けが低い学生も多かったという。中には、単位の取りやすさ、簡単さのみを判断基準として履修登録を行うような学生もおり、「今後自分がどんな知識を身につけて、どういった業界で働くのか」といった、目的意識やビジョンが全くない学生もいた。


容易に単位を落としたり、理解度が低かったり、就職はできてもその後苦労したりといった卒業生の話も聞こえていたという。学業への意識の低さと比例するように、競技成績も悪く、試合でもなかなか勝ちきれない。その結果、周囲からの応援を得にくいという状況だった。


15年間チームを指導している木村信太さんによると、「最初はとにかく学生を確保することを意識するあまり、学部のアドミッションポリシーもあまり意識せず、がむしゃらに勧誘して」いたという。熱心なのは教職員だけで、肝心の学生本人とのやる気の温度差は、大きかったようだ。


そんな学生たちの学業に対する意識を変えようと、木村さんが始めたのが、学生に履修登録など学業の計画を立てさせ、監督自らがフィードバックを行なうという取り組みだ。木村さんがオリジナルで作成した「履修登録単位取得計画書」なるものを卓球部の全学生に書かせ、学生が主体的に学業に向き合う機会を作っている。


新型コロナウイルス感染症により課外活動が長期間中止となった2020年度から、半期ごとに実施している。コロナによって学生が自宅学習を余儀なくされるなか、学生が指導者とコミュニケーションが取りづらくなったことを機に実施されるようになった。


◆コミュニケーションツールとなった「履修計画書」



計画書に記載する項目は、「昨年度のGPA、出席率、履修科目数、取得単位数、達成度および自己評価」「今年度の履修科目数、単位数、履修登録のポイント」「今年度の目標と目的、卒業後の進路」等である。それに対し、指導者がコメントを記載したうえで、フィードバックの面談を行う。


もともとは、計画書を作成させることで、もっと学生を知ろうという試みだった。ところが、コロナを機とする、このささやかな試みに、思わぬ効用が見られるようになってきた。


まず、学生自身が学業に対する半期ごとの振り返りや目標設定を作成し、現在のGPAや出席率、この履修登録のポイントを可視化して指導者に提示することで、いい加減な履修をしたり安易に単位を落としたりすることが減少した。また、その後のフィードバック面談で今後の目的、ビジョンを学生1人1人と共有することで、練習時間や遠征などについても考えながら上手な時間配分ができる学生が増えてきた。


「計画書」の導入による学生の変化について、木村さんこのように述べる。


「学生自身、自分と向き合う機会を持つことにより、目標達成のために履修した科目の理解度を深めていき、しっかりと講義に取り組んでいると感じています。その結果、必然的に学業成績も上がり、そうすると大会成績も同じように上がっていって、直近ではインカレでも強豪相手に競り勝っています。」


「運動部学生に限った話ではなく、自主的に履修計画を立てられる学生もいれば、履修に不安を感じている学生もいます。こういった計画書はゼミ担当教員も行っている指導なのかもしれませんが、私たち(部活の)指導者が自らこういったところについても管理していくと、学生をより理解したうえで競技指導にも携われるようになりました。」


◆「履修計画書」から始まった好循環、学生募集や地域連携も


木村さんは、学生募集の際にも、こうした取り組み・サポート体制を、高校側や保護者に伝えるようにしている。北陸大学(部)を評して、「とても面倒見がよい大学、チーム、指導者だ」と言ってくれる人も増えてきた。評価され、評判が上がると、全国からの入学者も増えてくる。こういった不思議だが必然的な流れが出てきたのが今回の取り組みの大きな収穫だ。


当然、学生の留年や退部もなくなってきている。昨今では公務員の内定が出たり、経営者になる者も出てきたりと、幅広い就職実績が出てきている。


さらに、本学卓球部では、学業成績や理解度が上がることで、学生1人ひとりが企画立案力も向上しているようだ。たとえば、学生自らが企画・立案し実行する地域貢献活動では、以下のような取り組みが次々と行なわれている。


・石川県内外の小中学生向けの卓球大会を開き、運営を行ったり練習相手になったり、盛り上げようと着ぐるみを着たりして、行なう普及活動。

・学生の居住地区、キャンパス内、キャンパス間を中心に実施する清掃活動。コロナが落ち着いた2021年度にハロウィンが再開したとき、1人の学生が「ハロウィン後の繁華街って誰が清掃しているんですか」という疑問から調査が始まり、地元の商工会議所と連携して企画書を作り、清掃活動を実施。

・大学近辺の金沢市をはじめとした自治体と「雪かきボランティア協定」を締結し、毎年要請に応じて学生が出動している。

・小学校の通学見守り隊を組織し実践。小学生からたくさんのお礼状をいただき、その小学校のおたよりにも掲載された。


これらの活動は、すべて学生が地元の方々と交渉し企画から実行までを行なっている。このような活動を通じて、学生はたくさんの方から応援されるようになり、地元企業によるスポンサー契約まで獲得するようになった。学生が主体的、かつ継続的に活動していることへの地元からの「応援したい」という声が、スポンサー契約につながった。


木村監督は続ける。「卓球部のチームスローガンは、“おめでとう”より“ありがとう”と言われるチームへ」。


「優勝おめでとうとか、インカレ出場おめでとうとか、競技をしていると“おめでとう”という言葉をよく聞くのですが、“ありがとう”って言われる機会ってどれぐらいあるか。箱根駅伝やWBCに優勝すると“感動をありがとう”と言われますね。そういう言葉に変えていかないといけないと思いまして、まずは大学生がやれる地域貢献活動から始めて、“ありがとう”と言われるチームにしていこうと。そうすることによって、卓球競技の成績も、社会人基礎力も高めていきたいと思っております。大学は最後の教育機関ですので、勉学にも課外活動にも重きを置いて指導しております。」


学生と部活動の監督が「履修計画書」を一緒に作成することが、学業成績向上だけでなく、学生募集、ひいては地域との連携までつながっていく。好循環の決め手は、計画書というツールを介した、教職員と学生のコミュニケーションにあったのではないか。


記事構成:阿部千尋(KEIアドバンス コンサルタント)

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